今回のテーマは、下剤について。
下剤の中でも浸透圧性下剤をピックアップして解説していきます。
それではいってみよう!
浸透圧性下剤とは?
作用機序
浸透圧効果により腸管内の水分量を増加させることで、便を軟化もしくは便容積を増大させ、排便を促進します。
浸透圧効果とは?
濃度の濃い液体と水を隔てていると、水は濃度の濃い方に引き寄せられる性質があります。この水が引き寄せられる力に相当する圧力を浸透圧と言います。
つまり浸透圧性下剤とは、腸管に濃度の濃い物質を投与することで腸管外から水を引き寄せ、便を柔らかくし排便を促進する薬というわけです。※モビコール配合内用剤のみ作用機序が異なります。詳しくは、作用機序の違いの項目で解説しています。
どのような便秘に適している?
便秘の種類で言うなら、弛緩性便秘と痙攣性便秘の2種類に使用される薬です。
また、浸透圧性下剤は便を柔らかくすることで排便を促進する薬なので、便は柔らかいけど、でにくいという方には不向きな薬となります。
便秘の種類は?
便秘は主に4つ(機能性便秘3つ、器質性便秘1つ)に分類することができます。
便秘の種類により、薬を使い分ける必要があります。
浸透圧性下剤を使用する利点
浸透圧性下剤を使用する利点は、2つ考えられます。
① 耐性や依存性がない
長期で服用しても薬が効きにくくなったり、薬がないと排便できなくなるというような依存性はない薬です。
② 妊婦にも使用しやすい
妊娠中は便秘になりやすいため、薬を使用したいという方も多いでしょう。妊娠中でも浸透性下剤は、比較的安心して服用することができる薬です。 ※あくまでも比較的で使用しないに越したことはない。また、日本で使用データが蓄積されているのは酸化マグネシウムのみ。
妊娠中によく処方される便秘薬の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
分類と有効成分・商品名
浸透圧性下剤は、4つに分類できます。
やはり多く流通しているのは、塩類下剤である酸化マグネシウムでしょう。
続いて2018年に発売され、処方制限が解禁された高分子化合物であるモビコール配合内用剤も最近では少しずつ流通量が増えているように感じます。
逆に糖類下剤であるモニラックシロップや浸潤性下剤であるビーマスなどは流通量が少なく、一度も見たことがないという薬剤師もいることでしょう。
糖類下剤と浸潤性下剤。この2つの浸透圧性下剤の流通量が少ないことには、理由があると私は考えます!
糖類下剤の流通量が少ない理由
実は糖類下剤は、成人に対する便秘の適応を持っている薬が存在しません。(小児便秘に対しての適応はある)
主な適応は特殊なケースとなります。
糖類下剤が成人の通常便秘に対して処方されているケースを何度か見たことがありますが、レセプトで切られてしまう可能性もあると考えられます。
以上から糖類下剤の流通量は少なくなっていると考えられます。
浸潤性下剤の流通量が少ない理由
浸潤性下剤であるビーマス配合錠やベンコール配合錠は、厳密に言えば浸透圧性下剤と刺激性下剤の合剤となります。
浸透圧性下剤は利点の項目でも記載したように耐性や依存性がない下剤ですが、腸を刺激して排便効果を発揮する刺激性下剤は効果が強い反面、耐性や依存性がある下剤です。
また、刺激性下剤を使用するならメジャーなセンノシドやラキソベロンを処方する医師が多いため、中途半端な位置付けにあるビーマスやベンコールが選択される可能性は少なくなっていると考えられます。
ではここからは比較的流通量の多い酸化マグネシウムとモビコールの違いについて解説していきます!
作用機序の違い
モビコールは、浸透圧性下剤の中で唯一作用機序が大きく異なる薬です。
モビコール以外の浸透圧性下剤は、先ほども記載したように腸管外から水を引っ張ってくる薬ですが、モビコールは薬自体が水分を保持したまま体内を移動することで、便に直接水分を与える薬となります。
モビコールと浸透圧の関係
通常、水分を口から摂取すると大腸へ届くまでにほとんどが小腸で吸収されてしまうのですが、モビコールは浸透圧効果により水分を保持することで、小腸からの吸収を避けて大腸まで水を届けることができるのです。
剤形の違い
酸化マグネシウムは、原末から錠剤まで幅広く剤形が存在する一方、モビコールの剤形は散剤のみ(水に溶かす必要があるため、厳密には液剤)となります。
モビコールを水で溶かすという作業は、慣れないと面倒に感じることでしょう。
また、モビコールは「お湯や少ない水で溶かすのは駄目!」など薬を溶かす際にも制約が多い薬です。
用法の違い
モビコールの流通量が日本でそこまで伸びていない理由の1つとして、この「複雑な用法」が挙げられるでしょう。
昔から酸化マグネシウムを処方しているDrがモビコールの用法を見れば、「モビコールは使い方がよくわからないから、いつも通り酸化マグネシウムを処方しよう!」となってしまいそうです。このあたりはMRや薬剤師からの情報提供が重要となるでしょう。
しかし、モビコールのメリットとしては、小児の用法があるということです。
酸化マグネシウムも使用できないわけではありませんが、小児用量はその都度計算する必要があるため、使用しにくいところです。(小児の便秘自体が稀なケースではあるが)
効果発現時間の違い
酸化マグネシウムの効果発現時間は、一般的に約8時間ほどであるため、夜服用すれば明け方には効果がでてくる薬となります。
一方、モビコールの効果発現時間は遅く、初回服用の際は効果発現までに約2日かかるというデータもあります。
そのため、モビコールは屯用で服用することはできないため注意が必要です。
Q.成人における、服用してからの効果発現時間(服用後の「初回自発排便」までの日数)は?
A.成人国内第Ⅲ相試験(検証期):初回自発排便発現までの日数の中央値は2.0日(n=80)でした。
引用元:モビコール配合内用剤Q&A
値段の違い
酸化マグネシウムは、日本では古くから存在するため、今ではとても薬価の安い薬となっています。(錠剤タイプは全ての規格で同じ値段)
対するモビコールは、日本では2018年に発売された比較的新しい薬となるため、薬価は高めです。
値段だけで言えば、圧倒的に酸化マグネシウムが有利というところでしょう。
日本では比較的新しい製剤であるモビコールですが、アメリカでは古くから使用されている便秘薬であり、便秘薬のシェアを50%ほど占めているそうです。また、逆にアメリカでは酸化マグネシウムを便秘薬として処方することはないそうです。
副作用の違い
酸化マグネシウムは古くから存在するためなのか、副作用頻度が添付文書に記載されていません。
対するモビコールは、しっかりと副作用頻度が記載されています。
しかし個人的な体感(患者に聞いているかぎり)では、下痢の副作用頻度は酸化マグネシウムとモビコールでほとんど変わらず、少ないように感じています。
重篤な副作用の違い
酸化マグネシウムの最大の欠点と言えば、「高マグネシウム血症」が挙げられます。決して頻度は多くないですが、国内でも因果関係が否定できない死亡例がいくつか報告されています。
特に注意が必要なのは、添付文書にも記載のある腎障害患者です。
慎重投与
(次の患者には慎重に投与すること)
1.腎障害のある患者
高マグネシウム血症を起こすおそれがある。
引用元:マグミット錠 添付文書
つまり、酸化マグネシウムは腎障害が起こり得る可能性の高い高齢者に使用する際は、注意が必要な薬と言えるでしょう。
対するモビコールの重篤な副作用には、アナフィラキシーショックがあります。
こちらも頻度は不明とのことですが、血圧低下、蕁麻疹、呼吸困難、顔面浮腫の異常などには注意が必要となります。
しかし、アナフィラキシーショックは高齢と関係がないため、モビコールは高齢者でも比較的安全に使用できる薬と言えるでしょう。
まとめ
今までの項目を簡単にまとめてみました。
酸化マグネシウムとモビコールの使い分け
酸化マグネシウム
【メリット】
使用方法が簡単で値段も安い
【デメリット】
高齢者含め腎障害患者に使用の際は注意
モビコール配合内用剤
【メリット】
小児や高齢者でも安心して使用可能
【デメリット】
・使用方法が複雑な上に値段も高い
・効果発現までに時間がかかる
以上。浸透圧性下剤の分類と、酸化マグネシウムとモビコールの違い・使い分けでした。
ではまた。