今回のテーマは、妊娠中によく処方される便秘薬について。
妊娠中はホルモンバランスの乱れなどにより便秘になりやすいため、妊婦が便秘薬を処方されるケースは多く存在します。
しかし、妊娠中は薬に対して過敏になっている方も多く「この便秘薬を飲んで本当に大丈夫ですか?」と質問されたことのある薬剤師も多いことでしょう。
そこで今回は、妊娠中によく処方される便秘薬の違いや安全性について徹底解説していきます!
妊娠中によく処方される薬は、以下5つの薬となります。
違いを1つずつ見ていきましょう。
① 酸化マグネシウム
代表的な商品名
・酸化マグネシウム錠、細粒
・マグミット錠、細粒
概要
浸透圧性下剤に分類される便秘薬であり、日本では古くから使用されている薬です。日本で一番よく処方されている便秘薬と言っても過言ではないでしょう。
浸透圧性下剤に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
添付文書の記載
記載なし。
FAD分類・オーストラリア分類
FDA分類では「C」と記載あり。
FDA分類「C」とは?(要約)
動物生殖試験では催奇形性や毒性、その他の有害作用があることが証明されているが、人での対照試験は実施されていない。もしくは、人・動物ともに試験は実施されていない。
その他・文献による情報
妊娠と授乳には「安全」と記載あり。
妊娠と授乳 「安全」とは?(要約)
疫学的な証拠が比較的豊富で、ほぼ安全に使用できると思われる薬。
妊婦に処方される理由
酸化マグネシウムに含まれるマグネシウムイオンは、容易に胎盤を通過すると言われていますが、そもそも酸化マグネシウム自体が消化管から吸収されにくい薬(つまりは、体に吸収されにくい)であるため、比較的安全に服用できると言われています。
また、マグネシウムは元々血液中にも存在するため、健常者が酸化マグネシウムを適正量で使用する限り、血中のマグネシウム濃度が上昇する可能性は低いと言われています。
② ピコスルファート
代表的な商品名
・ラキソベロン内用液、錠
・ピコスルファート内用液、錠
・ピコダルム顆粒
・チャルドール錠
・ファースルー錠
概要
刺激性下剤に分類される便秘薬であり、こちらも古くから日本で使用されている薬です。
添付文書の記載
有益性が危険性を上回る時のみ使用するよう記載があります。
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
引用元:添付文書 ラキソベロン内用液0.75%
FDA・オーストラリア分類
記載なし。
文献による情報
実践 妊娠と薬には「1点」と記載あり。
実践 妊娠と薬 「1点」とは?(要約)
疫学調査を行っていない。もしくは、疫学調査で人の催奇形性を示唆する症例報告はない。しかし、動物生殖試験では催奇形性の報告が一部でている薬もあり。
妊婦に処方される理由
酸化マグネシウムと同じく、ピコスルファートも消化管で吸収されずに大腸まで届き効果を発揮する薬(つまりは体へ吸収されにくい)であるため、薬が血中に移行せず比較的安全に使用できると言われています。
③ レシカルボン
代表的な商品名
・新レシカルボン坐剤
概要
ピコスルファートと同じく刺激性下剤に分類される薬です。
炭酸ガスを発生させて腸を刺激することで自然に近い排便を促すことができると言われています。
添付文書の記載
記載なし。
FAD分類・オーストラリア分類
記載なし。
その他・文献による情報
記載なし。
妊婦に処方される理由
明確なエビデンスは一切ありませんが、レシカルボンの作用機序(腸内で炭酸ガスを発生させることで間接的に腸に刺激を与える。)から、妊婦に対しても比較的安全に使用できる薬と言われています。
とは言え、レシカルボンの最大の難点は坐薬という剤形です。
お腹が大きくなってくれば当然坐薬を使用するのも一苦労であるため、妊婦の方にとっては抵抗がある薬と言えるでしょう。
④ ビサコジル
代表的な商品名
・テレミンソフト坐薬
・ビサコジル坐剤
概要
刺激性下剤に分類される薬です。剤形はレシカルボンと同じく坐薬のみとなりますが、作用機序はレシカルボンと異なり、薬の成分が直接腸を刺激する薬です。(レシカルボンは炭酸ガスを発生させることで間接的に腸を刺激)
添付文書の記載
子宮の収縮を誘発することで切迫流産の危険性ありと記載があります。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
2.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には大量投与を避けること。[子宮収縮を誘発して、流早産の危険性がある。]
引用元:テレミンソフト 添付文書
FAD分類・オーストラリア分類
オーストラリア分類では「A」と記載あり。
オーストラリア分類「A」とは?(要約)
多数の妊婦に使用されてきた薬だが、奇形の頻度や胎児に対する有害作用の頻度が増大するという証拠は観察されていない。
その他・文献による情報
特になし。
妊婦に処方される理由
オーストラリア分類「A」などのデータを基に使用されているケースがあるそうです。しかしレシカルボンと異なり、ビサコジルは腸を直接刺激するタイプの薬であるため、添付文書には切迫流産の危険性ありと記載されています。
そのため、安全性はビサコジルよりもレシカルボンの方が高いという考え方が多いようです。
ビサコジルとレシカルボンの違いは、こちらの記事で詳しく解説しています。
⑤ センノシド
代表的な商品名
・センノシド錠
・プルゼニド錠
・センノサイド顆粒
・アローゼン
概要
刺激性下剤に分類される薬です。
こちらも古くから日本で使用されている便秘薬であり、健常者にはよく処方されている薬ですが、妊婦に処方されるケースは、紹介する5種類の中で一番少ない薬と言えるでしょう。理由は添付文書に記載されています。
添付文書の記載
子宮の収縮を誘発することで切迫流産の危険性ありと記載があります。
また、紹介する5種類の中で唯一センノシドは妊婦対して原則禁忌となります。
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。〕
なお、投与した場合、子宮収縮を誘発して、流早産の危険性があるので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には大量に服用しないよう指導すること。
引用元:プルゼニド錠 添付文書
原則禁忌
(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
引用元:プルゼニド錠 添付文書
原則禁忌と禁忌の違いに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
他の刺激性下剤は大丈夫?
同じ刺激性下剤に分類されるピコスルファートやレシカルボンの添付文書には、妊婦に対して危険性の記載はありません。(ビサコジルは、切迫流産の危険性ありと記載あるが、原則禁忌の記載はない)
一体なぜなのでしょうか?
恐らくですが、腸を刺激する力の違いが関係していると思われます。センノシドは刺激性下剤の中でも刺激力が強いと考えられているため、このようなリスクの記載(原則禁忌)があるのではないでしょうか?
いずれにせよ、他の刺激性下剤も高用量や長期での使用は控える方がよいと思われます。
FDA・オーストラリア分類
FDA分類では「C」と記載あり。
オーストラリア分類では「A」と記載あり。
FDA分類「C」とは?(要約)
動物生殖試験では催奇形性や毒性、その他の有害作用があることが証明されているが、人での対照試験は実施されていない。もしくは、人・動物ともに試験は実施されていない。
オーストラリア分類「A」とは?(要約)
多数の妊婦に使用されてきた薬だが、奇形の頻度や胎児に対する有害作用の頻度が増大するという証拠は観察されていない。
FDA分類とオーストラリア分類の違いに関しては、こちらの記事で解説しています。
その他・文献による情報
実践 妊娠と薬には「1点」と記載あり。
実践 妊娠と薬 「1点」とは?(要約)
疫学調査を行っていない。もしくは、疫学調査で人の催奇形性を示唆する症例報告はない。しかし、動物生殖試験では催奇形性の報告があるものもあり。
妊婦に処方される理由
添付文書では妊婦に対して原則禁忌となっていますが、実際に使用されるケースは存在します。理由として、センノシドも酸化マグネシウム等と同じように消化管で吸収されずに大腸で効果を発揮する薬だからです。
そのため、センノシドの成分が血中に移行することはほとんどないため、胎児に直接影響がでる可能性は低いと言われています。
参考までに、虎の門病院でセンノシドを服用した136例中131例の妊婦は奇形のない健常児を出産したそうで、センノシド服用による危険性は自然な奇形発生率を上回ることはないと結論づけた研究結果もあるようです。
とはいえ添付文書にも記載のある通り、切迫流産のリスクが上昇する可能性もあるため、酸化マグネシウムやピコスルファートなど他の便秘薬を使用しても効果がない時、最終手段として使用すべき薬と言えるでしょう。
最後に・まとめ
今までの項目をまとめてみました。
安全性や使用経験、使用方法(剤形)などを考慮すると、
酸化マグネシウム>ピコスルファート>レシカルボン>ビサコジル>センノシド
の順で妊婦に対して使いやすいと考えます。
以上。日々の業務の手助けに少しでもなれば幸いです。
ではまた。