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オーストラリア分類とFDA分類の違いとは?それぞれのデメリットも解説!

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今回のテーマは、オーストラリア分類とFDA分類について。

薬剤師であれば誰もが知っている「妊婦に対する薬のリスク分類」ですが、分類の詳しい意味や違いまでしっかり理解している薬剤師は、それほど多くないと思われます。

そこで今回は、オーストラリア分類とFDA分類について、違いやデメリットなど詳しく解説していきます。

オーストラリア分類とは?

オーストラリアの医薬品評価委員会が作成した5つのリスク分類です。(Bはさらに3つに細分化)

分類

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要約すると、以下になります。

A:使用実績からほぼ安全な薬。

B:使用経験が少なく、ヒトでの危険性を示す根拠が少ない薬。(B1〜B3のサブカテゴリーは、動物実験の結果により分類分けされています。)

C:催奇形性はないものの、胎児に対し有害作用のある薬。

D:催奇形性の危険性も疑われるが、状況によっては使用を認める薬。

X:危険度が高いため絶対禁忌の薬。

オーストラリア分類の欠点

必ずしも階層的な安全評価ではないということです。

というのも、カテゴリーBはあくまでも「使用経験が少なく、ヒトの安全性データが蓄積されていない薬」です。

つまりは「BよりAが安全な薬」や「CよりBが安全な薬」などとは一概に言えないということです。特にBのサブカテゴリー(B1〜B3)は、動物実験により分類されたカテゴリーなので、B3よりもB1の方がヒトに対しても安全という考えは単純過ぎると言えるでしょう。

ちなみに「カテゴリーBに属する医薬品は、Cに属する医薬品より安全であることを示す物ではない」とオーストラリア分類の注意事項にも記載されています。

FDA分類とは?

アメリカ食品医薬品局(FDA)が作成した5つのリスク分類です。

分類

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要約すると、以下になります。

A:使用実績からほぼ安全な薬。

B:動物実験ではほぼ安全。もしくは動物実験では有害作用が報告されているが、ヒトに対するデータが少ない薬。

C:動物実験では催奇形性などの有害作用が報告されているものの、ヒトに対するデータが少ない薬。

D:ヒトに対して明らかなリスクはあるが、状況によっては使用を認める薬。

X:危険度が高いため絶対禁忌の薬。

FDA分類の欠点

欠点① カテゴリーAの判定は厳しい

カテゴリーAとして定義される薬に対して、質の高いデータを要求しているため、他の分類分けではカテゴリーAに分類される多くの薬がFDA分類ではカテゴリーCに含まれているそうです。そのため、現場ではしばしば混乱が生じます。

【例】

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センノシドは、オーストラリア分類では安全性の高い「カテゴリーA」に属しているものの、FDA分類では「カテゴリーC」に含まれてしまいます。

欠点② 階層的な安全評価ではない

オースラリア分類と同じように、カテゴリーBやCは「ヒトに対するデータが少ない薬」であるため、「BよりもAが安全」や「CよりもBが安全」などとは一概に言えません。

欠点③ FDA分類は撤廃されている

FDA分類は、なんと2014年に撤廃が決定しています。(つまりは、2014年以降に発売された薬はFDA分類のカテゴリー分けがされていません)

FDAが撤廃された理由とは?

FDA(アメリカ食品医薬品局)は以下のように述べています。

FDAは,経験と関係者からのフィードバックを通じて,薬剤胎児危険度分類(pregnancy category)は混乱をもたらし,胎児へのリスクの程度の差を正確かつ一貫性をもって伝達するものではなかったことを認識した。また,臨床医は薬剤胎児危険度分類に依存するところが大き いが,この分類は誤って解釈・使用され,この分類の根拠となった情報を理解して処方上の判断を行うというより,分類にもとづいて処方上の判断を行うことが多かったことをFDAは知った。 FDAは,分類システムから妊娠に関する表示を記述する形式に改めることによって,薬剤曝露の潜在的リスクを,動物やヒトのデータにもとづいて最もよく把握し情報伝達することができ ると考える。FDAは,薬剤胎児危険度分類を残すことは,胎児へのリスクの程度の違いについ て,正確かつ一貫性をもって情報伝達するという目的に合致しないと判断した。したがって, 本規則の最終版(final rule)では,薬剤胎児危険度分類(A,B,C,D,X)をすべての医薬品 製品表示から削除するよう要求している。

要約すると「危険度分類で単純に安全 or 危険を決めるのではなく、それぞれの薬の潜在的リスクをしっかり把握しなければより良い医療は行えないと考えるため」というところでしょう。

理由はなんであれ、撤廃はとても残念なことです。薬剤師含め、頼りにしていた医療従事者も多かったことでしょう。その証拠にFDA分類撤廃から約6年が経過しましたが、「今日の治療薬」にはいまだにFDA分類が掲載され続けています。 (オーストラリア分類も掲載)

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分類の違い

今までの項目をまとめてみました。

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何度も言うように、オーストラリア分類とFDA分類は、どちらも階層的なリスク分類ではないということをしっかり考慮する必要があります。

「なぜ危険なのか?」「なぜ安全に使用できるのか?」を常に考えながら薬を妊婦さんにお渡しすることが、薬剤師の責務と言えるでしょう。

ではまた。