今回のテーマは、乳酸アシドーシスについて。
乳酸アシドーシスと言えば、ビグアナイド系糖尿病治療薬であるメトホルミンの代表的な副作用として知られています。
薬学部では必ず習うため、薬剤師であれば誰もが知っている副作用の1つです。
しかし!
「乳酸アシドーシスて何?」という質問をすると、意外としっかり返答できる薬剤師は少ないと思います。
そこで今回は、乳酸アシドーシスの機序や診断基準、治療方法について徹底解説していきます。
機序は?
血液中に乳酸が蓄積されると、血液は酸性に傾きます。この酸性に傾く状態をアシドーシスと言います。
つまり乳酸アシドーシスとは、乳酸により血液が酸性に傾く状態をさします。
通常、血液は弱アルカリ性に保たれており、血液が酸性に傾くと、免疫力が低下し、様々な疾患を引き起こすことになります。
症状は?
初期症状は?
強い倦怠感、筋肉痛、吐き気、下痢などが初期症状となります。
悪化すると?
悪化すると、過呼吸、血圧低下、やがて昏睡状態となり、死に至ります。
通常は初期症状が数日〜数週間続いた後に重症化します。そのため、初期症状が現れたら、可能なかぎり早めに休薬や減量するなど対処する必要があります。
薬剤師は、メトホルミン服用患者に対して常に注意喚起し、乳酸アシドーシスの初期症状を疑った場合は、すぐに医師に伝達しましょう。
乳酸アシドーシスは、極めて稀な副作用ではありますが、悪化すると致死率は25〜50%ほどとも言われています。
診断基準は?
・乳酸濃度5mmol/L以上
・血液pH7.35未満
この診断基準は、薬剤師にとってはあまり重要な項目ではないかもしれません。参考程度に頭の片隅にいれておきましょう。
治療方法は?
○ メトホルミンの減量、中止
原因薬であるメトホルミン製剤を減量または中止させます。
○ 呼吸・循環管理
状態に応じて、酸素投与・人工呼吸管理・細胞外液補充・昇圧薬など治療をおこなっていきます。
○ 血液透析
メトホルミンなどビグアナイド系糖尿病治療薬と関連する乳酸アシドーシスには、血液透析が有効という報告があります。下記論文を参照しています。
Metformin-associated Lactic Acidosis: A Prognostic and Therapeutic Study - PubMed
△ PHD阻害薬の投与
まだ研究段階ですが、PHD阻害薬を使用すると、乳酸の肝臓や腎臓への取り込みが進み、乳酸アシドーシスの発症を改善できるという報告があります。(マウスの実験)
こちらの書籍に記載があります。
✖️ 重炭酸ナトリウムの投与
重炭酸ナトリウムの静注が治療法として記載されている書籍は多く存在しますが、実際に治療効果を示すエビデンスはないそうです。 下記論文を参照しています。
乳酸アシドーシスの発現率を高めてしまう状況を再確認!
乳酸アシドーシスの発現率を高めてしまう状況をしっかり把握し、メトホルミン服用患者に日々指導していく必要があります。※下記はメトグルコの添付文書、メトホルミンの適正使用に関するRecommendationを参考に記載。
腎機能障害患者
腎機能が悪化すると、メトホルミンの排泄が低下するため、メトホルミンの血中濃度が高まり、乳酸アシドーシスの発現率が上昇する可能性があります。ちなみに、eGFRが30mL/分/1.73㎡未満の患者はメトホルミン製剤は禁忌となります。
心血管・肺機能障害患者
心臓や肺の機能が低下すると低酸素状態になります。すると、嫌気的解糖(酸素が足りないため、体が糖を乳酸などのエネルギーに変えてしまうこと)が進むことにより、乳酸が増加し、乳酸アシドーシスの発現率が上昇する可能性があります。
肝機能障害患者
乳酸は肝臓で代謝されるため、肝臓の機能が悪いと、乳酸の代謝が低下し、乳酸アシドーシスの発現率が上昇する可能性があります。
脱水、シックデイ、アルコール
シックデイ(病気になった時)や過度のアルコール摂取は脱水を引き起こします。脱水になると、腎機能が悪化したり、低酸素状態となるため、乳酸アシドーシスの発現率が上昇する可能性があります。また、アルコールは肝臓にも負担がかかるため、乳酸の代謝低下からの乳酸アシドーシスにもつながります。
ヨード造影剤使用時
ヨード造影剤を使用すると、腎臓に負担がかかるため、メトホルミンの排泄が低下します。すると、血中のメトホルミン濃度が上昇するため、注意が必要です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
手術前後、重篤な外傷がある方
感染症からの脱水リスクがあるため、危険な要因と考えられています。
高齢者
全てのリスクが高いため、高齢者に投与する際はより注意が必要です。
・腎、肝、心、肺どの臓器が不良でも乳酸アシドーシスの発現率が上昇する可能性があるため、注意が必要。
・健康な人でも過度のアルコール摂取やシックデイ、脱水など注意が必要。
・高齢者はより注意。
以上。乳酸アシドーシスの機序や症状、治療方法についてでした。
ではまた。