今回のテーマは、メトホルミン(商品名:メトグルコ)と造影剤の関係について。
メトホルミンを服用している患者が造影剤を使用することになり、メトホルミンの休薬指示を受けることは、薬局・病院薬剤師であれば誰でも一度は経験したことがあるでしょう。
そこで今回は、造影剤使用時にメトホルミンを休薬する理由や休薬期間、さらには緊急で造影剤を投与する際の対処法などを徹底解説していきます。
- 造影剤とは?
- 造影剤使用時にメトホルミンを休薬する理由
- 造影剤使用で乳酸アシドーシスの発現率が上昇する理由
- 休薬期間について
- 緊急で造影剤を投与する場合はどうする?
- 合剤も注意が必要
- 薬剤師としてできること
造影剤とは?
造影剤とは画像診断の際、画像に色をつけたり、特定の臓器を強調するために使用される医薬品です。
種類として
・ヨード造影剤
・バリウム
などがありますが、その中でもメトホルミン服用時に注意が必要な造影剤は、ヨード造影剤となります。他の造影剤は影響がありません。
造影剤使用時にメトホルミンを休薬する理由
メトホルミンの代表的な副作用と言えば、乳酸アシドーシスが挙げられます。
乳酸アシドーシスは、発現する確率が極めて低い副作用の1つですが、1度発現すると予後は悪く、致死率も高い(約25〜50%)副作用です。
そんな乳酸アシドーシスですが、造影剤を使用すると発現率が上昇するため、メトホルミンを休薬する必要があるわけです。
造影剤使用で乳酸アシドーシスの発現率が上昇する理由
メトホルミンは乳酸やアミノ酸からの糖新生を抑制して、血糖値を下げる薬です。
そのため、メトホルミンを服用すると乳酸が蓄積されやすい状態となります。
通常は、乳酸が蓄積されても、乳酸の代謝が高まり、乳酸アシドーシスが起こることはほとんどないのですが、造影剤を使用すると腎臓に負担がかかるため、メトホルミンの排泄が低下してしまい、メトホルミンの血中濃度が高まります。
すると、乳酸の代謝が追いつかなくなり、乳酸アシドーシスを引き起こしやすくなるというわけです。
休薬期間について
メトホルミンの休薬開始時期
腎機能が正常な患者
メトホルミンの休薬は必要ない
※日本のガイドラインには、腎機能が正常な場合のメトホルミンの休薬について記載はありません。しかしアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアなど海外のガイドラインでは、腎機能が正常な場合、メトホルミンの休薬は必要ないと記載されています。
eGFRが30〜60mL/分/1.73㎡の患者
ヨード造影剤検査の前or造影剤時にメトホルミンを中止
※日本糖尿病学会発行の糖尿病治療ガイド2020-2021に記載があります。
ちなみに腎臓病の進行分類はこちら。
ガイドラインには、腎機能が悪い患者だけメトホルミン中止の記載があることから、やはり腎機能が正常な場合は、休薬の必要はないと言えるでしょう。
また、ヨード造影剤検査前と記載があるだけで、具体的にどれぐらい前なのかは記載がありません。
しかし、メトホルミンの半減期は約4時間であること、さらに薬物動体を見るかぎりでは、24時間前に休薬していれば間違えはないと個人的には考えます。
メトホルミンの投与再開時期
造影剤投与後48時間後
※こちらも同じく、糖尿病治療ガイド2020-2021に記載があります。また、腎機能の悪化が懸念される場合は、eGFRを測定し、腎機能を再評価した後に再開する必要があるとも記載されています。
緊急で造影剤を投与する場合はどうする?
メトホルミンを服用中の患者がカテーテル手術やCTを行うことになり、ヨード造影剤を緊急的に投与するケースは多く存在します。
その場合どうするのか?
もちろんですが、ヨード造影剤に代わる薬は存在しないため、必然的に造影剤は投与されます。
重要なのは、造影剤後はメトホルミンを休薬させる必要があるということです。ガイドライン通り、腎機能が悪化していれば、必ず休薬させる必要がありますし、緊急的で腎機能がわからない場合もメトホルミンは休薬した方が懸命と言えるでしょう。
合剤も注意が必要
メトグルコやそのジェネリックだけでなく、最近ではメトホルミンが含まれている合剤も多く登場しているため、注意が必要です。
薬剤師としてできること
最後に、造影剤投与による乳酸アシドーシス発現を回避するために、薬剤師としてできることを考えてみました。
① 投薬で検査や手術の予定はないか日々確認する
ルーチンワークのような投薬をしていると、検査(CT)や手術(カテーテル)の予定などは中々話してくれることはないでしょう。「メトホルミンを服用しているから何に注意しないといけないのか?」日々目的を持って投薬を行う必要があります。
② 乳酸アシドーシスのリスク回避を日々指導する
造影剤の投与以外にも、シックデイや脱水、飲酒など乳酸アシドーシスの発現を上昇させる要因は多く存在します。メトホルミンを適正に使用できるかは、薬剤師次第と言っても過言ではないでしょう。
以上。メトホルミンと造影剤の関係についてでした。
ではまた。